■再生の要点
・屋根
増築前の主屋は6間×5間、総2階、切妻屋根で創建当時はトントン葺きでした。その後セメント瓦に葺き直されていましたが、セメント瓦は既に色褪せ屋根
屋さんからは「限界が近い」と。
建物の軽量化を考え、ガルバリウム鋼板で葺き換えました。ただ、あまりに広い屋根面のため、瓦棒葺きと平葺きの組合せとして、単調になることをさけたデザ
インとしました。
・建具
古民家の美しさのなか”用の美”を一番に感じさせらるものに、建具があります。最小の予算で最大限の効果を生み出してくれる頼もしい役者が古建具です。
この家は長い間住まれていなかったため、建具がそのまま残っていました。また始めからの建具が大変良質のものでした。平面を出来るだけ壁で仕切らずに良い
建具を最大限利用しています。一部襖紙なども古いものをそのまま張替ずに使用しました。
■家の歴史
この家は登記書類によると、明治5年に登記されていました。築140年ほどの建物です。
当時、ここ飯能一帯は杉や桧の良材に恵まれ、材木で栄えた地域でした。昔から「西川材」と江戸の人に呼ばれ、付近一帯には100軒を超える製材所があっ
たといいます。
この家の持ち主も材木商を営み、2階の部屋は若衆達の宿泊に使用されていたとのことでした。たしかに一般的な農家や町家とも異なる平面です。その後この
家は売りに出され、現在の家主の所有となりました。以来、家主は茶室の増築や、水廻りの改築は行っていましたが、昔の建物部分は、ほとんど手を加えること
なくおかれていました。家主の祖母が亡くなってからは30年ほど使用されていなかった建物です。
縁あって私共が手に入れた古民家ですが、無人の30年間には、2階天井にはハクビシンが住みついていたり、鳥や小動物の出入りは自由で、床下からは白蟻
による被害が予想以上のものでした。
■再生のテーマ
・増築された部分は取り除き原型に戻し、街道沿いの外観はそのままに残すことを考え、住むための最低限の機能を付け足す
・2階板の間は私共のアトリエとして使用
・予算が限られていることから、全ての職種を分離発注
・自分達で出来る工事は、自分達で行う(主に解体の手伝い、清掃、塗装工事の全て)
・民家再生による、環境負荷削減をCO2による徹底調査(工学院大学 中島裕輔研究室)
■再生を終えて
厳しい気候条件にも、外敵にも耐え抜いた朽ちる寸前の建物でしたが歴史を経た民家を是非とも残したいという気持ちから、一軒の民家を蘇らせることが出来
ました。
このように家が新しくなってみると、改めて残してよかったと思います。道路から見える落ちついた外観や、残された座敷の存在感に今更ながら驚きます。
民家を再生して現代に生かすことが嬉しく、楽しい。そして今回は幸いにもこの家を仕事場として利用することになりました。もし古い家をどうしようか迷っ
ている方が居られたら是非ご一考願います。ご見学を希望の方はご連絡ください。