この家は新潟県上越市柿崎にあった築約100年ぐらいの御主人の実家の古民家を移築再生したものです。移築先は静岡県函南にある自然豊かな温泉付別荘地。信楽焼の浴槽を設置した浴室や、ホビールーム、料理好きな奥様の本格的なキッチンなど設計作業は楽しいものであった。
私共が気をつかったことは、日本海に面した町家であり、隣同士がくっついており庇がほとんど出ていない妻入り切妻屋根の形状の変更に試行錯誤したことだっ
た。建物を移築再生する場合、環境風土が変化するわけだから、大切なのは古民家の骨格を活かしながら、周囲の環境に溶け込んだ家の形やプロポーションにす
ることに一番力をかけたいと思っている。これが最も時間の経過のなかで飽きのこない形と設計者として後悔しないことにつながってくれると思っている。函南
の家では古民家の階高がわりに低かったことも起因して、全体に低い建物にすることができ、自然のなかにすごく良くなじんでくれた成功例だと思っている。建
物は常にバランスコントロールのきいた表現にしなければ、歴史の試練に耐えてゆかないものと最近とくに感じている。