『三丁目の家』移築再生を終えて
古民家のもつどっしりした空間にひかれ、古民家をなるべく残し、住み継ぐべく
私はこれまで民家再生を中心に設計の仕事をしてきました、あらためて指を折って
数えると、50軒を超える民家再生にたずさわってきて、かれこれ20年ほどの間、
古民家の世界にのめり込み、浸っていた勘定になります。
今回完成した三丁目の『家は、ここ藤沢市から近い神奈川県秦野市の築150年の
民家「村上家」でした、第2東名道の計画により民家を解体することになり、民家
再生協会の民家バンクに登録されていた建物です。村上家は代々この地で煙草農家
を営み、現在も大きなハウスで野菜や花造りなど、地域にとけ込んだ生活のうかが
えるお住まいでした。調査に伺った際など、いつもお茶のついでにいとも簡単に
お赤飯を炊いて下さり、なにか『くらし』と『すまい』がいつも一体となった、
無理も無駄もない簡素な感じ、私には、家と共に、この上なく好もしいものに思わ
れました。
『住み継ぐ生活』
住み継ぐということは、日本のように土地の値段が変動しやすく、住まいに対す
る意識も価値観も世の風潮に左右されやすい国であり、身につけにくいものです。
よく2代3代と100年もつ家を望まれる民家再生ですが、古民家を改修してゆけば
構造的には百年充分もつものですが、給排水や空調などの設備、また電気設備
はとうてい無理です。そのためメンテナンスがしやすいようにしておく必要があり
ます。また間取りの問題もあります、百年という時間で考えると、家族は成長した
り年老いたり、絶え間なく変化してゆくものですから、融通性のある変化に対応で
きるように構造壁の合理的な配置や水回りなど、あらかじめ充分考えておく必要が
あります。そして家の材料は、手入れのしがいのある材料でつくること、それは高
価な素材でなくとも、時間とともに味わいの深まっていく材料を大切にすることです。昔の人のように、毎日ぬか袋で磨きあげるのは不可能かも知れませんが、
時々
でも磨いてやったらそれに応えてくれるような材料でできている家は、なにか懐か
しい趣きと、頼もしい感じがあるものです。そんななかから、家を育て、継いでゆ
くという気持ちも芽生えてくるのではないでしょうか。
この三丁目の家の台所にあるアイランドテーブルは、前の家で使用していた特注のテーブルで、奥様お気に入りのものを再利用致しました。間もなく、この
キッチンから料理好きな奥様の手料理の匂いが漂ってくるのは間違いないでしょう。